大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和44年(ク)419号 決定 1970年5月19日

抗告人

芝彦一

弁護士

玉置寛太夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人玉置寛太夫の抗告理由第一点について。

借地法八条ノ二第一項による借地条件変更の裁判は、借地権の存在することを前提とするものであり、借地権の存否は、訴訟事項として、対審公開の判決手続によつてのみ、終局的に確定される。しかし、右規定による非訟事件の裁判をする裁判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争いがあるときは、常にこれについて民事訴訟による判決の確定をまたなければ借地条件変更の申立を認容する裁判をすることができないというべきものではなく、その手続において借地権の存否を判断したうえで右裁判をすることは許されるものであり、かつ、このように右前提事項の存否を非訟事件手続によつて定めても、憲法三二条八二条に違反するものではないと解するのが相当であつて、このように解すべきことは、すでに当裁判所の判例(昭和三九年(ク)第一一四号同四一年三月二日大法廷決定、民集二〇巻三号三六〇頁)の趣旨とするところに照らして明らかである。けだし、借地非訟事件手続においてした右前提事項に関する判断には既判力が生じないから、これを争う当事者は、別に民事訴訟を提起して借地権の存否の確定を求めることを妨げられるものではなく、そして、その結果、判決において借地権の存在が否定されれば、借地条件変更の裁判もその限度において効力を失うものと解されるのであつて、前提事項の存否を非訟事件手続において決定することは、民事訴訟による通常の裁判を受ける途を閉すことを意味するものではないからである。したがつて、論旨は採用することができない。

同第二点について。

論旨は、憲法二九条違反をいうが、その実質は、原決定における裁量の不当ないし法令違背を主張するにすぎないものであつて、民訴法四一九条ノ二第一項所定の適法な抗告理由にあたらない。

よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例